えもしん!

エモい心理学論文と、kindle本の出版記録を書き溜めています。

セーラー服とこひつじたち

中学の頃、僕はブレザーを着ていた。当然、僕の友達も、僕が好きな子もブレザーを着ていた。二学期が始まった頃だった。そんな中に、セーラー服の子がひとり、入り混じることになった。彼女は隣町から転校してきた、と担任の先生から紹介があった。なぜか僕の隣の席になった。状況だけを考慮すると、何かがはじまりそうだったが、何もなかった。

 

そのセーラー服の子が顔をあげるのは、授業中にノートをとるときぐらいだった。休み時間はずっと俯いたまま動かない。まっすぐに伸びた髪の毛が、顔を覆うように垂れているから、表情は見えない。良い意味でも、悪い意味でも、特に容姿に特徴のある子ではなかった。そんな様子だったから、誰も話しかけに行けなかったのだと思う。それでも、退屈な教室に現れた、貴重な刺激だったから、クラスの何人かがアプローチを試みた。

 

ある男子生徒が「なぁ」、と声をかける。しかし、その子は特に応答することなく、俯いたままだった。そのとき、男子生徒がにやりとした顔を周囲に見せた。すると、他の男子生徒もけらけらと笑い出した。教室の隅にいたおとなしいタイプの生徒も、いっしんにその子を見つめている。

 

なんとなく、僕はこのとき、興味が悪意に変わった瞬間だと感じた。僕たちは、あの瞬間、多数派になったんだな、と感じた。そして、僕も同じ立場になったんだな、と感じた。それほどに、僕たちのブレザーと、彼女のセーラー服は、象徴的に働いていた気がする。

 

いつの間にか、ブレザーたちは、優位な立場になっていた。「上」も「下」もはっきりとした区別のなかった教室に、多数派と少数派(というかひとりだ)が生まれた。ブレザーたちは自分自身に、何の根拠もない偽物の有能感を抱いたのかもしれない。

 

松本麻友子・山本将士・速水敏彦 (2009). 高校生における仮想的有能感といじめとの関連 教育心理学研究, 57 (4), 432-441.

 

 

論文の内容

この論文は、高校生を対象に、仮想的有能感といじめの加害経験・被害経験の関係性を調査したもの。仮想的有能感とは「他者の存在を軽視し自身の根拠のない有能感を高める傾向」であり、「自分の周りには気の利かない人が多い」「他の人の仕事を見ていると手際が悪いと感じる」などのアンケート項目で調査された。

 

また、加害経験と被害経験は身体的いじめ(「たたいたり、けったり、首をしめる」)、言語的いじめ(「通りすがりに、または面と向かって悪口を言う」)、間接的いじめ(「無視する」)などの項目によって、加害・被害経験ごとに調査された。つまり、それぞれの項目について、自分がいじめたのか、自分がいじめられたのかを調査したことになる。

 

高校生っていっても、偏差値などによっていじめの経験って変わってくるんじゃないかな、と思った。けれど、上位高校と中位高校を対象として調査したとのことなので、それほど偏ったデータではないと思う。

 

調査の結果、仮想的有能感が高い人ほど、身体的・言語的・間接的いじめの加害経験・被害経験が多いということが明らかになった。ざっくりいうと、他人を見下している人ほど、色々ないじめをしたことがあるし、されたこともあるということになる。

 

 

感想

見下している=いじめをする、という図式は直感的に理解しやすい。また、他人を見下している=いじめられる、という図式も成り立つ気がする。彼を取り巻く集団によっては、彼は嫌われる対象にもなりえるだろうから。

 

もっと、教室を、集団を、社会を、流動的にできればいいのにと思う。ずっと同じ集団で過ごすのではなく、日々関わる人間を変えていければいいのに。

 

その点で、大学という社会集団は、とても楽だった気がする。誰かと一緒にいるのも、ひとりになるのも自由だったから。居心地がよければ、しばらくはそこにいればいい。だけど、気持ち悪くなったら、また別の集団に逃げたい、と思う。そういったことを、どのような人生の段階でも、行っていければいいのに、と思う。

 

僕たちはたいてい、ずっと同じような人と、同じところにいる。だから、自分の属性というものを、固定化してそれが自分のアイデンティティのように思いすぎてしまうのかもしれない。日本人と隣国の人、男と女、高齢者と若者も、おなじ。自分と異質な人は、正直なところ、怖いのだと思う。いじめる側も、きっと本能的な部分があって、生物として警戒をしているから、集団から排除することが妥当であると判断をする。

 

何気なく人に話しかける、というのはとても勇気のあることだと思っていて、何か僕たちには、いつも理由が必要なのかもしれない。ときどき、それは「いじめ」という関係性に辿り着いてしまう。ほんとうに不器用だと思う。

 

おしまい。